ドローン搭載型風速風速計
背景
高層気象観測の現状と課題
従来、高層(上空 1,000m程度まで)における気象観測(気温や風向風速等)の手段としては、主にゾンデ観測法(ヘリウム充填バルーンに気温やGPSセンサ等を搭載したラジオゾンデ:発信機を吊り下げて上空に放球)が採用されていました。ゾンデ観測法は、気象庁の高層気象観測指針 (気象庁, 2004)で規定された手法であることに加えて、過去の観測実績も豊富に存在します。また、気象庁検定付のゾンデであれば測定精度についても保証されています。その一方で、放球後のバルーンは、所定の観測高度まで上昇後、破裂してゾンデ発信機は地上に落下します。落下の際はパラシュートが開くように設計されていますので地上落下時の人的および物的被害は最小限になるよう考慮されていますが、送電線に接触したり、飛行場や道路上などに落下して通常の施設運用に支障が生じるリスクが少なからず存在します。また、上空で航空機等に衝突するおそれもあります。加えて、ゾンデ発信機の使い捨てによる問題として環境負荷や観測コストに関する指摘が存在します。さらに近年は、バルーンに充填するヘリウムの需給が世界的に逼迫しており、供給不足や価格の高騰といった問題を抱えています。
ドローンによる高層気象観測
従来のゾンデ観測法の問題を解決する方法として、近年、災害地域における上空からの写真撮影や人が立ち入れないような橋梁部などの保守点検に活用される事例が急増しているマルチコプターに代表されるドローン(UAV:Unmanned Aerial Vehicle:無人飛行体)が注目されています。上空の気象観測にドローンを活用することで、従来の方法での問題点が改善されることが期待されます。もっとも、ドローンによる上空の気象観測についてはこれまで報告例が少なく、観測手法について研究(UAVを用いた高層気象観測技術の開発、2016年京都大学他)が進められています。
ドローンによる風向風速計則
ドローンに気象観測機器を搭載し上空でホバリングさせることで任意の高度の観測データを取得することが可能となりますが、この手法では、 特に風の観測については、ドローンのローター回転にともなう風の影響や超音波風向風速計の設置面が水平を保てない場合の測定精度への影響などが懸念されます。京都大学の調査(2016年京都大学防災研究所宇治川オープンラ ボラトリー)によると、気象観測鉄塔の近傍で気象セン サ搭載ドローンをホバリングさせ、取得した観測データを気象観測鉄塔に設置された機器による観測値と比較した場合、高度55mを対象に比較観測を実施した結果ではドローンによる風速の観測値と気象観測鉄塔に設置された風車型風向風速計による観測値がよく一致していることが確認されています。また、風向についても両者の観測データはほぼ一致していることが確認されています。但し、異なる機種の気象センサ搭載時や弱風時の比較観測ではドローンによる観測風速が気象観測鉄塔よりも過大となる事例もあるとのことです。
2017年に京都大学が桜島上空で測定した実験結果では地上で観測したドップラーライダーによる観測結果との比較が可能な高度500mまでのデータでは、高度150m付近はやや差異がみられるものの、風向はドローン及びライダーともに地上~上空まで両者の結果はよく一致していました。 風速についてもドローンによる観測結果はライダーによる鉛直プロファイルとほぼ同じであったとのことです。
一般的にドローンはホバリング時には風上に正対して機体が傾き定位置を保っています。この時の傾きの大きさ(傾斜角)は風速に依存しますので、ドローンの姿勢データから風向風速を推定する手法が報告されています(Polomaki et al., 2017; Neumann and Bartholmai, 2015)。京都大学の研究でも、風洞実験からドローンの傾斜角は風速の2乗に比例して大きくなり関係式が導出されています。関係式を用いてドローンの姿勢データから推定した風向風速とドローンに搭載した超音波風速計による観測値を比較した結果、ややズレが生じる高度があるものの、鉛直プロファイルの傾向はほぼ一致することが確認されています。
(出典:「ドローンを用いた高層気象観測技術の実証」日本気象協会、京都大学)